質量分析イメージング(MSI )の原理と特徴

今回は私共が受託分析サービスとして展開している質量分析イメージングの原理と特徴について解説いたします。

質量分析イメージング(Mass Spectrometry Imaging:MSI)は、分子イメージング法すなわち、生体内での分子分布や分子プロセスを可視化する方法の1つです。イメージング質量分析、イメージングMS(IMS)、マスイメージングとも呼ばれています。

原理は異なりますが、多くの方が慣れ親しんでいる顕微鏡と同じように“画像”のアウトプットのため、MSIで得られた結果は一目でわかります。

マウス 脳 ドーパミン 分布

 分析例:マウス脳のドーパミンイメージング像

質量分析イメージングの原理

 質量分析イメージングは、光学顕微鏡で観察した画像に基づいて、見たい領域を設定し、その領域内にレーザ光スポットを照射して質量分析を行っています。

 当社が使用しているiMScope TRIO (島津製作所) は、顕微MALDI部とイオントラップ (ion trap; IT) - 飛行時間型 (time-of-flight;TOF) の質量分析部から構成されるイメージング質量顕微鏡です。

IT-TOFはイオントラップでの構造解析を高質量分解能で行うことに定評があります。試料は大気圧下で紫外レーザ(Nd:YAGレーザー;波長355 nm)を照射することでイオン化されます。

生成されたイオンはイオン導入部から質量分析部へ導入され、電圧によって加速し、真空中を飛行します。その際、イオンの重さによって検出器に到達する時間が異なるため、質量をイオンの価数で除したm/zに応じて分離され、ピークとして検出されます。

iMScope TRIOで可能なイオン化法は2種類あり、試料自身のレーザ光エネルギー吸収により試料をイオン化するレーザ脱離イオン化 (Laser Desorption / Ionization; LDI) とレーザ光エネルギーをマトリックス化合物が吸収し、試料のイオン化を促進するマトリックス支援レーザ脱離イオン化法(matrix-assisted laser desorption/ionization; MALDI) です。

 

質量分析イメージング(MSI)の特徴

 同じ分子イメージング手法のひとつである顕微鏡が“光”を見ている一方で、MSIは対象分子から生成された“イオン”を見ています。そのイオンの挙動をMS内で制御することで、イオンの質量、量、分子構造情報を取得することができます。

他の分子イメージング手法で必要なプローブは不要なため、多くの分子種をカバーでき、代謝物を含む広範な分子解析が可能であることがMSIの特徴のひとつです。プローブを必要としないので、未知の分子を測定・同定することも可能です。

また、MSIは顕微鏡に比べ分解能が高いため、検出ピークの特異性が高く、多成分を一度に測定することができます。

 

まとめ

 今回は質量分析イメージングの原理と特徴について説明いたしました。質量分析と聞くと難しいと思われるかもしれませんが、MSIでは顕微鏡と同じように画像が得られることを知っていただけた皆様には、親しみを持っていただけたでしょうか。